ナチス・ドイツによる大空襲を受けたワルシャワの火の海から、何もかも失ったまま命からがら逃げだし、中央アジア・トルキスタン(現カザフスタン)で土色と暑さ寒さだけが印象的な中、空腹をしのいで生活していた少年は、ある日、パンを得るためのお金で地図を買ってきた父に怒りを覚えた。
だが、翌日壁に貼られたその地図は、まず暗かった部屋に色を与え、退屈だった少年にすることを与え、また、彼を世界中どこへでも連れて行っては、様々に想像を膨らませてくれた。
ひもじさも貧しさも忘れ、夢中になれるものを与えてくれた父の選択は正しかったのだと、すこし経って、少年は思ったのだった。
『よあけ』『ゆき』『空とぶ船と世界一のばか』などで有名な絵本作家ユリ・シュルヴィッツが、自身の少年時代を描いたものです。
人工知能の研究がどんどんと進み、実用化され、皆にとって身近なものとなる未来が、すぐそこまで迫っている中で、もう一度“想像力”“表現力”を育てる教育が目指される必要があるとの思いから、私も現在の仕事をしていますが、悲劇に見舞われたあと、見知らぬ土地、生活さえ苦しい中で、そこに目が向いた作者父の行動の素晴らしさには、ことばにならないものを感じます。自らの衣服を売ってピノッキオに教科書を買ったゼペットじいさんに通ずるところですね。
こどもたちに何を残すか… 何が起こるか分からない未来でも普遍的に求められる何かでありたいですね。
ユリ=シュルヴィッツ・作
さくまゆみこ・訳
(原題:How I Learned Geography)
薦めたい学年:読み聞かせ Level 4
読み聞かせにかかった時間:5分半
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